『コーディングWebアクセシビリティ WAI-ARIAで実現するマルチデバイス環境のWebアプリケーション』の感想
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コーディングWebアクセシビリティ WAI-ARIAで実現するマルチデバイス環境のWebアプリケーション
3行要約
- 標準に沿ったHTMLとテクノロジーが連携することで、HTMLはアクセシブルなコンテンツになる
- WAI-ARIAは、Webコンテンツ・アプリケーションをよりアクセシブルにするための仕様である
- WAI-ARIAは補足的なテキストコンテンツを提供することによって、スクリーンリーダーのアクセシビリティを向上する
WAI-ARIAの入門書
WAI-ARIAの入門書的な立ち位置の本です。WAI-ARIAの基本や代表的なrole属性・aria属性を紹介しつつ、Webサイトでよく使われるUIパーツをアクセシブルにする方法を解説しています。
内容は初めてWAI-ARIAについて知る人向け、といった感じで、あまり情報量の多い本ではありません。マークアップにある程度慣れていて、WAI-ARIAを学び始めたい人が読むとよさそうです。
なお、『デザイニングWebアクセシビリティ アクセシブルな設計やコンテンツ制作のアプローチ』の姉妹本とされていますが、本書はこれと異なり翻訳本です。
頻出UIパーツをアクセシブルにして学ぶWAI-ARIA
本書ではメニューやモーダルといった頻出UIパーツを例に、WAI-ARIAを用いてそれらをアクセシブルにする方法が解説されています。実践的な内容となっていて、WAI-ARIAを具体的に学ぶことができたので有用でした。
こういったUIパーツはライブラリを使って実装することも多く、アクセシビリティ対応を謳ったライブラリもあります。そのため、実装者がアクセシビリティを意識する場面が減ってきているようにも感じますが、本書にあるような基本的な内容はおさえておいた方がよいと思います。
一部の内容が古くなっている
一部の内容が古くなっているのが気になりました。
例えば、本書ではHTML要素にrole属性を明示的に記述するよう述べられています。しかしながら、仕様書の以下の記述の通り、HTML要素にその要素の暗黙的なroleを指定することは推奨されていません。
However, it is NOT RECOMMENDED for authors to specify the implicit role of the element, the generic role, or a role deprecated by ARIA on these elements.
本書が刊行された2015年から見るとブラウザや支援技術は大きく発展しているでしょうし、仕様も変更されているかもしれません。なので本書の内容をそのまま鵜呑みにするのではなく、並行して最新の情報を調査しておく必要があります。
ただ、WAI-ARIAの根本的な考え方や仕様は変わっていないはずなので、本書が全くの時代遅れになってしまっているわけではありません。それらについて知りたいのなら十分役目を果たしてくれると思います。
原文のクセと翻訳のせいで少し読みづらい
内容自体は良い本だと思いますが、原文のクセと翻訳のせいで少々読みづらい印象を受けました。
まず、本文中に理解を助けるためであろうたとえやジョークが多く出てきます。技術書ではなく技術者の少しくだけたブログを読んでいるような感じです。とっつきやすさを出すためには有効かもしれませんが、少しくどいように感じました。個人的にはもう少し堅い文章の方が好みです。
翻訳は悪いとは思いません。明らかに意味が通らない文章はなかったので、ある程度丁寧に翻訳されているようです。ただ、全体的にストレートに訳しただけのような文章で、言いたいことはわかるがスッと頭に入ってこない感じでした。原文の意味を壊さない程度により理解しやすい日本語に変換する、ぐらいはしてもよかったんじゃないでしょうか。
感想
WAI-ARIAに入門するには良い本です。気になったところもあるものの、そもそもWAI-ARIAを扱う本が他にほとんどないことを考えると、多少の欠点にも目をつむれます。この本を足がかりに仕様書を確認しながらアクセシビリティ改善に着手していこうと思います。